ケン・ボーズマン来日!音声音響教育シンポジウム2026を振り返って 🎤✨
更新日:9月16日
お久しぶりのHayatoです。
昨日はレッスンをお休みさせていただいて、私がVPを務めるNATS Japanに所属されている岩崎大貴先生主催で開催された「音声音響教育シンポジウム2026」に参加して、お勉強してきました!
今回は、声楽音響学・声楽造形学の第一人者であるケン・ボーズマン(Ken Bozeman)氏が来日!
さらに、声と脳・身体の知覚を多角的に研究されている山崎広子先生が登壇されるという、まさに圧巻の二本立てでした 🔥
今回のシンポジウムを通じて、私が特に強く感じたのは、
「声道の物理的・音響的メカニズム(外側の管)」と「脳・神経系による制御と知覚(内側のシステム)」が、実は一つの大きなストーリーとしてつながっている
ということです 💡
音響学・生理学・神経科学の視点も交えながら、この濃密な一日を振り返ってみたいと思います!
1. ケン・ボーズマン:非線形音響とフォルマント・チューニングの実践 🎵
ボーズマン氏の講義で特に印象的だったのは、
声帯を力づくでコントロールするのではなく、「声道(Vocal Tract)」という管の共鳴条件をいかに効率よく整えるか
という考え方でした。
一般的な「声帯=音源、声道=フィルター」というSource-Filter Theoryだけではなく、現在の音声科学では、**音源とフィルターが互いに影響し合う「Source-Filter Interaction」**も重要なテーマになっています 🔊
🔊 声道からの音響的フィードバックを利用する
声帯が振動して音源が作られると、その音響エネルギーは声道を通って外へ放射されるだけではありません。
声道内で生じる音響的な負荷、特に**音響インピーダンスや慣性リアクタンス(Inertive Reactance)**が、声門付近の流れや声帯振動にもフィードバックします。
この相互作用が適切な条件になると、声帯振動を助ける方向に働くことが示されています。
つまり、
「声帯だけで頑張って大きな声を作る」のではなく、「声道の音響条件を整えることで、声帯振動を効率よく支える」
という考え方です 💡
これは、歌唱における「響きを作る」という感覚を、音響物理の側から考える上でも非常に興味深いポイントでした。
🎼 高音域における「母音の変容」
例えば女性のF5は約698Hz。
このような高音域では、母音によっては基本周波数(F0)が第1フォルマント(F1)に近づいたり、場合によっては上回ったりすることがあります。
ここで重要になってくるのが、
フォルマント・チューニング(Formant Tuning)
です ✨
高音域では、話し言葉のときとまったく同じ声道形状を維持することが、必ずしも最も効率的とは限りません。
そこで、
😮 開口度を調整する
純粋な「お(/o/)」に固執するのではなく、音高や声道の条件に応じて、/ɔ/ や /ɑ/ の方向へ母音を変化させるなど、声道形状を調整します。
🏛️ 声道全体の形状を調整する
顎・舌・唇・咽頭などの形状を変化させることで、F1・F2を含むフォルマントの位置を変え、目的とする倍音との関係を整えていきます。
重要なのは、
「正しい口の形を一つ固定する」のではなく、音高・母音・声質に応じて、声道という管そのものを音響的に調整していく
ということ。
特に高音域では、音源そのものの強さだけではなく、声道側の共鳴条件をどう作るかが、音響出力に大きく関わってきます 🎵
実際に、歌唱におけるresonance tuningを検討した研究でも、基本周波数が高くなるにつれて、共鳴チューニングによる音響出力の最適化がより重要になることが示されています。
つまり、
「話し声のフォームをそのまま高音まで押し上げる」のではなく、「音高に合わせて管の形を変化させ、音響的に成立する条件を作る」
という考え方です。
これは、私自身が日々のレッスンで大切にしている、
「声帯だけで頑張らず、声道全体の条件を整える」
という考え方とも非常につながる部分でした 💡
2. 山崎広子先生:進化発生学と「脳がボス」である知覚システム 🧠
ボーズマン氏が「声道の物理法則」という外側からアプローチされたのに対して、山崎広子先生は、
「人間はどのように声を進化させ、そして脳と耳によって、その声をどのように知覚・制御しているのか」
という、生物学・神経科学の視点から声を捉えていました 🔍
ここが、今回私の中で特に大きな発見でした。
🧬 ヒト固有の「安定した声」の進化
非常に興味深かったのが、人間の発声器官の進化についてのお話です。
非ヒト霊長類では、声帯周辺に人間とは異なる構造が存在しますが、人類の進化では喉頭の構造が単純化され、そのことがより安定した音源生成につながったとする研究があります 🐒➡️👤
実際、2022年にScience誌に掲載された研究では、霊長類の比較研究から、声帯膜(vocal membranes)などの構造的な単純化が、人間の安定した発声に寄与した可能性が示されています。
つまり、
人間は「複雑な構造を追加する」ことで言語を獲得したのではなく、発声器官の一部を単純化することで、より安定した音源を得た
という、非常に面白い進化のストーリーです 🧬
🎛️ 声道は「アンプ」ではなく可変フィルター
そして、ここでもう一つ重要なのが声道です。
声道は単なる「響かせる空間」ではありません。
舌、顎、唇、咽頭などの形状を変えることで、音源から生まれたスペクトルを変化させる、
「可変フィルター(Variable Filter)」
として働きます 🎚️
つまり、
🗣️ 声帯=音源(Source)
🎷 声道=可変フィルター(Filter)
👂 耳=入力・フィードバック
🧠 脳=感覚情報と運動情報を統合するシステム
という関係です。
🧠 そして「脳がボス」
ここは少しキャッチーに言わせてもらうと……
脳がボスです 👑
もちろん、実際の神経科学では「脳の一部分がすべてを司る」という単純な構造ではありません。
発声には、
運動野
補足運動野(SMA)
前運動野
聴覚野
島皮質
大脳基底核
体性感覚系
など、複数の領域がネットワークとして関与しています。
特に歌唱では、
「自分が出した声を聴く → 目標と比較する → 必要に応じて運動を修正する」
というauditory-motor integrationが重要になります 👂🧠
実際、2022年の研究では、左補足運動野(SMA)を一時的に抑制すると、聴覚フィードバックの変化に対する発声ピッチの補正が低下することが示されました。
つまり、SMAを含む脳のネットワークは、実際の発声制御に因果的に関わっている可能性があるわけです。
🎧 「耳で聴いて、脳で調整する」というループ
ここで面白いのが、
声は「出して終わり」ではない
ということです。
🫁 呼気
↓
🗣️ 声帯振動
↓
🎷 声道によるフィルタリング
↓
🔊 音響出力
↓
👂 聴覚系
↓
⚡ 神経系
↓
🧠 脳
↓
🗣️ 次の発声運動を調整
というループが存在します。
さらに、声帯と声道の間にも、
声帯 ↔ 声道
という音響的な相互作用があります。
つまり発声は、
Brain → Motor Control → Source ↔ Filter → Auditory Perception → Brain
という、非常に複雑なclosed-loop systemとして見ることができます 🔄
🤝 音響物理と脳科学が交差する場所
今回のシンポジウムを総括すると、私の中ではこんな構造が見えてきました 🌐
【脳・神経・知覚】
🧠 脳・神経系
⬇️
🎯 運動計画・運動制御
⬇️
🫁 呼気 + 声帯振動=音源生成
↕️
【音響物理】
🎷 声道=可変フィルター
⬇️
🎼 フォルマント・倍音・音響インピーダンス
⬇️
🔊 音響出力
⬇️
【聴覚・知覚】
👂 外耳 → 中耳 → 内耳
⬇️
⚡ 聴覚神経
⬇️
🧠 脳で解析・知覚・予測
↺
そして、この情報が再び発声運動へ戻っていきます。
だからこそ、
「話し声のままの感覚で高音を出そうとして、声帯だけで頑張る」
のではなく、
音高に応じて声道の形状を調整し、音響的に効率のよい条件を作り、その結果を聴覚・身体感覚を通して脳がキャリブレーションしていく。
という考え方が、とても重要なのだと思います 🎯
もちろん、これは「高音ではこういう形にすれば必ず正解」という単純な話ではありません。
声質、母音、音高、声種、声道形状、声源の状態などによって最適な条件は変わります。
だからこそ、
「正しい形を覚える」のではなく、「なぜその形になるのかを理解する」
ことが重要なんですよね。
🔬 では、科学を理解すれば歌は良くなるのか?
ここまで、音響物理や神経科学の話をたくさん書いてきました。
でも、実は僕自身、長年ボイストレーナーとして、そして音楽プロデューサーとして、ずっと葛藤していることがあります。
それは、
「これを頭で理解したからといって、歌が良くなるわけではない」
ということです。
声帯の構造を知っても、フォルマントを理解しても、音響インピーダンスや聴覚フィードバックの仕組みを学んでも、それだけで歌えるようになるわけではありません。
そして、もう一つ。
「歌が上手くなったからといって、アーティストとしてヒットするわけでもない」
これも、音楽の現場に長くいるほど強く感じることです。
音楽には、歌唱技術だけでは説明できないものがあります。
声そのものの個性。
楽曲との相性。
歌詞。
メロディ。
アレンジ。
サウンドプロダクション。
アーティストのキャラクター。
時代性。
そして、聴く人との出会い。
時には、技術的に「完璧」とは言えない声のほうが、その人にしかない魅力として作品を成立させることだってあります。
だから僕は、今回あらためて、
「では、僕たちは科学を何のために学ぶんだろう?」
と考えました。
そして、今の僕が出している答えは、
科学は「歌い方の正解」を教えてくれるものではなく、アーティストの可能性を狭めないための地図なのではないか。
ということです。
例えば、
「高音はこう出すべき」
「この母音ではこうするべき」
「響きはここに集めるべき」
と、一つの方法を正解として覚えてしまうのではなく、
「なぜ今、この声になっているのか?」
を考える。
声帯なのか。
声道の形状なのか。
母音とフォルマントの関係なのか。
呼吸と声門の協調なのか。
聴覚的なフィードバックなのか。
あるいは、それらが複合的に関係しているのか。
構造を知っていれば、原因を一つに決めつけずに考えることができます。
そして、そこから初めて、
「このアーティストには、何を変える必要があるのか?」
そして同じくらい重要な、
「逆に、何は変えないほうがいいのか?」
を考えられる。
僕は、ここがボイストレーナーとして非常に重要な仕事だと思っています。
科学は、アーティストを型にはめるためのものではない。
むしろ、
その人の「声」という個性を守りながら、選択肢を増やすために使う。
そのための道具なんじゃないか。
そう考えると、
「感覚ではなく、構造で歌を変える。」
というVOCOLABの考え方も、少し違って見えてくるかもしれません。
これは、感覚を否定するという意味ではありません。
むしろ逆です。
アーティストがすでに持っている感覚や個性を尊重したうえで、
「その感覚の裏側では、身体と音響に何が起きているのか?」
を理解する。
そして、必要なところだけを変える。
変える必要がないものは、無理に変えない。
その結果として、アーティスト自身が持っている声の可能性を、より自由に使えるようにする。
僕は今、そんなふうに考えています。
だから、僕が目指しているのは、
「科学的に正しい声」
ではありません。
最終的に目指したいのは、
「その人にしかない声を、その人にしかできない表現として作品にすること。」
なのだと思います。
これは、ボイストレーナーとしても、音楽プロデューサーとしても、これからもずっと考え続けていきたいテーマです。🎧
今回のシンポジウムで得た知識も、単なる「知識」で終わらせるのではなく、
目の前にいる一人ひとりのアーティストの声を、どう理解し、どう育て、どう作品にしていくのか。
そのために、これからのVOCOLABで活かしていきたいと思います。🔬🎤
岩崎先生、浅野先生、そして素晴らしい講義をしてくださったケン・ボーズマン氏、山崎広子先生、本当にありがとうございました!🔥
この記事は9/16にリライト・編集されました。

